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グアダルペの聖母の出現の歴史

 日本語訳


 献辞

 この小冊子は、メキシコシティーの司教座聖堂(カテドラル)から北へ6キロメートル離れた場所にあるテペヤックの丘での、グアダルペの聖母の出現の奇跡を紹介するものです。ヨハネ・パウロ二世によって列聖された、インディヘナ(先住民)のファン・ディエゴの前に聖母が現れたのは、アステカ帝国が征服されてから10年後の1531年12月9、10、12日のことでした。

 16世紀から、聖母マリアへの崇敬はグアダルペのみ名のもとに、メキシコ全土だけではなく、五大陸の多くの国々にも広がって行きました。メキシコにおいてはすべての村や町、そして都市にグアダルペの聖母を礼拝するための聖堂が建てられました。 また、世界の別の地域の多くの都市においても、この聖母に捧げられた祭壇や巡礼地を見つけることが出来ます。

表紙

 この日本語への翻訳は、東京のカサ・デ・エスパーニャの代表であるホセフィナ・ケイコ・オザキさんと、実際に翻訳の作業を受け持ったサト・エミさんによって行われました。 カサ・デ・エスパーニャの協力なしには、この美しい物語をお手元に届けることは出来なかったでしょう。

エステバン.マルティネス・デ・ラ・セルナ

グアダルペ宣教会 司祭

グアダルペ大寺院名誉参事会員

グアダルペの聖母

グアダルペの聖母

 この小冊子は、グアダルペ宣教会の来日五十周年を記念して日本語に翻訳されたものです。

グアダルペの聖母

グアダルペの聖母御出現の物語

 ここに語る物語は、いと清き乙女、神の母、聖マリアが、テペヤク 、――のちにグアダルペ と呼ばれるようになった――に奇跡的に出現された事実を記すものである。

 聖母は、まず、あるインディオの前に出現された。彼の名はホアン・ディエゴ。そして後に、その美しいみ姿を新任のホアン・デ・スマーラガ司教の前に現わされた。

メキシコ語で書かれた原文

メキシコ語で書かれた原文

最初のご出現

1. メキシコという町の降伏から十年経ち、人々が既に矢を捨て盾を捨てたときだった。

 世には平和が満ちていた。

2. 草が芽吹き伸び行くように、信仰のつぼみが花開きはじめたころだった。それは人のいのちのみなもとであるまことの神を知ることだった。

3. ときは一五三一年十二月の初め、村に素朴で謙虚なインディオがいた。

4. 名はホアン・ディエゴ、聞くところによるとクアウティトランに住んでいた。

5. しかし、信仰の面ではトラティロルコに属していた。

6. 土曜日の朝まだ暗いうちに、ホアン・ディエゴは神の呼びかけに応えるように出かけていった。

7. 小さな丘、テペヤクのふもとにたどり着くと、もう夜が明けていた。

8. すると丘の上から沢山の美しい小鳥の声が歌声のように聞こえてきた。鳥の歌声がやむと、丘もこれに応えて歌った。 その歌声は、コヨトトゥルやチニンスカンのような美しい小鳥の声に勝るほどやさしくここちよい歌声だった。

9. ホアン・ディエゴは立ち止り、辺りを見まわし, 驚きの声をあげた。

「私はあの歌声を聴くにふさわしい男なのか ただ夢を見ているのか 夢が見えるだけなのか

10. ここはどこだ? 自分はどこにいるのか? 遠いご先祖様が、じぃさまや、ばぁさまが語り伝えたところか? 花が咲く土地、自分たちの肉や糧となるトウモロコシが実る土地……まさか、天国か」

11. 見えるのは太陽の昇る小さな丘の頂き、美しい天の歌が聞こえてくる丘だった。

12. ふと歌声がやみ、辺りは静まり返った。丘の上から名を呼ばれるのが聞こえた。

「私のいとしい子ホアンよ、私の愛する息子ホアン・ディエゴよ」。

13. ホアン・ディエゴはそちらの方へ思いきって行ってみた。何の疑いも、何の恐れもなく。とても楽しく幸せな気分でいっぱいだった。呼ばれた所を確かめようとディエゴは小さな丘を登った。

14. 丘の頂きにたどり着き、そこにたたずむ乙女と出会うと、

15. その乙女はホアン・ディエゴに近くにくるように言った。

天使たちに導かれたホアン・ディエゴ
天使たちに導かれたホアン・ディエゴ

16.乙女の前へたどり着くと、ホアン・ディエゴはいかなる賛美にも勝るその気高さにみとれた。

17. その衣は太陽のように、きらきらと照り映え、

18. 足もとの石や小岩は、射すくめるように輝いていた。  

19. 乙女はこの世で一番美しい宝石のようにひかり輝き、

20. 地面は霧を照らす虹のようにあざやかだった。

21. メスキーテスやサボテンや、辺りの草木はエメラルドのように、草の葉はトルコ石のように、幹や枝やトゲは金のように光り輝いていた。

22. その姿を前に、ホアン・ディエゴはひざまずいた。栄光と優しさに満ち溢(あふ)れたお声を、み言葉を聞いた。強く魅(ひ)かれ、崇(あが)めさせるお方だった。

23. 乙女はホアン・ディエゴに言った、

「お聞き、わたしの子どもの中で一番小さなホアンよ、どこへ行くのです?」

24. ホアン・ディエゴは答えた、

「私のいとしい乙女よ、わが愛する娘よ。 わたしは、あちらへ、メキシコのトラティロルコにあるあなたの家に参ります。わが主の映し身(うつしみ)である神父様がたが教えて下さったように、神の教えを守るために行くのです。」

25. このように言葉を交わしてすぐに、乙女はその尊い心を開いてみせて、

26. こう仰せになった、

「では、知りなさい、確信しなさい、わたしの子どもの中で一番小さなホアンよ。私は終生けがれなき聖マリアです。人を創り、この国と全ての天と地を創られ、すべてを生かすまことの神よりのまことの神の母です。この土地に私の聖なる家をあなたたちに建ててほしいのです。

27. この場所で人々に彼(主イエス・キリスト)を示し、告げ知らせたいのです。

28. その愛と、慈(いつく)しみのまなざしと、助け、救いの手を。  

29. なぜなら、私は、まことに、あなたがたの慈しみ深い母、

30. あなたやこの地に住む全ての人の母、

31. 私を愛し、呼び叫び、探し求め、私に信頼を置く多くの人々の母。

32. 私は、その場所で、皆の嘆きや悲しみを聞き届け、痛みやつらさ、惨めさをいやしましょう。

33. だから、愛と慈悲に満ちた私の願いが叶えられるように、メキシコの町の司教の館に行きなさい。そして、私があなたを派遣したこと、私の熱い願い――ここに私の家を用意してほしいこと、この野原に聖堂を建ててほしいこと――、あなたが見たこと、感動したこと、聞いたこと、全てを司教に話しなさい。

34. そうしてくれたら、それをあなたに感謝して、必ずそれに報いることを約束します。

35. 私はあなたを豊かにし、誉(ほ)めたたえます。

36. あなたのご苦労と私の使者として使わされるという骨折りに対しては存分に報いましょう。

37. 愛し子よ、あなたは私の胸のうち、私の言葉を聞きました。さあ、お願いですから, 行って役目を果たして来てください」。

38. すぐに、ホアン・ディエゴはみ姿の前にひれ伏して言った、

「私の尊いお方、私のいとしい娘、私はあなたの尊い胸のうち、尊いみ言葉を果たしに参ります。では、あなたのはしためである小さいインディオはお別れを申します。」

39. ホアン・ディエゴは役目を果たすために丘を下り、メキシコの町へとまっすぐに延びる石畳道にぶつかりその道を進んで行った。

40. 町にたどり着くと、まっすぐに司教の館を訪ねた。司教はつい最近着座されたばかりで、その名はホアン・デ・スマーラガと言い、聖フランシスコ修道会の司祭だった。

41. ホアン・ディエゴは着くとすぐに司教に会おうと努め、司教の召使いや助手たちに、取り次ぎを頼んだ。

42. 長い時が経ち、やっと呼ばれた。司教が中に入るように命じたのだった。

43. ホアン・ディエゴは入るとすぐ司教の前にひざまずいて、天の后(きさき)の尊い胸のうち、尊いみ言葉、その託(ことづ)けを打ち明けた。そして自分の感動と見聞きしたこと全てを話した。

44. そのいきさつと、託けの全てを聞いても、司教はそのままこれを受け取らず、

45. こう言った、

「我が子よ、こんど来るときは、もっと落ち着いてお前の話を聞こう。まずは初めから、訪ねて来た訳や、望みは何かをじっくりと考えてみよう。」

46. ホアン・ディエゴは館を去った。役目をすぐには果たせなかったので悲しかった。

二度目の御出現

47. 戻ると、日は暮れかけていた。ホアン・ディエゴは丘の頂きに向かってまっすぐに進んだ。

48. ホアン・ディエゴは天の后と再会できて喜んだ。初めてみ姿を現わされたあの場所で聖母は待っておられた。

49. み姿が見えるとすぐに、聖母のみ前の地面にひれ伏して言った。

50. 「お方様、天の后、私のいちばん小さな愛する娘よ。あなたの優しい胸のうち、優しいみ言葉を実現するためにお命じの所へ行ってまいりました。司教様の館に何とか入ってお目通りし、あなたの胸のうちとあなたのみ言葉を、あなたのおっしゃった通りに、はっきりとお伝えしました。

51. 司教様は私を優しく迎え入れ、お話をよく聞いてくださいました。しかし、お答えの様子では、私の言うことがよく分からず、信じられないと、

52. そして『また来なさい、落ち着いて聞こう。まずは始めから訪ねてきた訳と望みは何かを知りたい』とおっしゃいました。

53. 私には司教様のお気持が分かりました。ここに建てたいとお望みの家のことを、私の口からでまかせの話であり、あなたのみ言葉ではないと思われた。

54. お方様、天の后、私のいちばん小さな愛する娘よ、どうかお願いです。貴族や名士のどなたか、世に知られ、尊敬され、誉れ高い方に、あなたの優しい胸のうちを明かし、お言葉をかけ、このお役目をお与え下さい。そのほうが信用されます。

55. 私はただの田舎者、背負子(しょいこ)やその紐(ひも)のように取るに足りない卑しい者、自分も背負われてお導きが必要な身です。野越え山越え私を遣わされたあの場所は、私のようなものが行ったり留まったりする場所ではありません。お方様、天の后、私のいちばん小さな愛する娘よ。

56. どうかお許しを。あなたのお顔を、お心を悲しみで曇らせてしまいます。私はあなたの怒り、悲しみにひしがれます、お方様。」

57. 汚れなき乙女、誉(ほ)め敬(うやま)われる方は仰せになった。

58.「お聞きなさい、わたしの子どもの中で一番小さなものよ。確かに、私の胸のうちや言葉を成し遂げることのできる僕や使いの者は少なくはありません。

59. けれど、あなたが自ら赴き、願い、仲立ちすることによって、私の望み、私の思いがかなえられることがぜひとも必要なのです。

60. だから私はあなたによくよくお願いします。わたしの子どもの中で一番小さなものよ。はっきりと命じます。明日もう一度行って、司教に会いなさい。

61. 私からだと知らせなさい、私の望み、私の意志を知らせなさい。私の願いを実現し、私の望む教会を建てるために。

62. さあもう一度、私、永遠の乙女マリア、神の母があなたを遣わしたと彼に言いなさい。」

63. そこでホアン・ディエゴはこう申し上げた。

「お方様、天の后、私のいちばん小さな愛する娘よ、あなたのお顔を・み心を悲しみで曇らせはいたしません。喜んであなたの胸のうちとみ言葉を伝えましょう。何があろうとやり抜きます、遠い山道も何も苦にはいたしません。

64. 私はあなたの思いを果たしに参ります。でも、司教様は聞いてくれないかもしれません。聞いてくれても信じてもらえないでしょう。

65. 明日の夕方、日が沈む頃、あなたのみ言葉、胸のうちにたいする司教様のお返事をもらって参ります。

66. では慎(つつし)んでお別れいたします。お方様、天の后、私のいちばん小さな愛する娘よ、しばらくお休みください」。

67. そしてホアン・ディエゴも休むために家にもどった。

聖母に派遣されたホアン・ディエゴ

68. 翌日の日曜日、まだ夜明け前の薄暗い中、ホアン・ディエゴは家を出てトラティロルコに真っ直ぐ向かった。 神様の教えを知るためにやってきて、出席をつけてもらった。そのあと、司教に会いに行った。

69. 用意が出来たのは10時頃。ミサに出席し、台帳につけてもらった。集まった人々は思い思いに帰っていった。

70. そこでホアン・ディエゴは司教の館へ向かった。

71. 館に着き、必死で司教に会おうと努力し、ようやく再会できた。

72. 司教の足元でひざまずき、天の后のみ言葉、胸のうちを明かしているうちに、ホアン・ディエゴは感情がこみ上げてきて、涙を流した。

聖母に派遣されたホアン・ディエゴ

73. そして、この使命を信じて欲しい。汚れなき乙女が望まれる地に、その選ばれた地に聖堂を建てて欲しいという乙女の胸のうちを信じて欲しいと願った。

74. 司教はホアン・ディエゴにたくさんの質問をして、いろいろと調べた――どこで見かけたのか、その姿形はどんなだったか――と詳しく尋ねた。ホアン・ディエゴは司教の質問にひとつひとつていねいに答えた。

75. ホアン・ディエゴは見て感動したそのままを細かく伝え、その方こそ汚れなき乙女、優しく美しい、救い主イエズス・キリストのみ母だとわかったことを話した。

76. が、それでも信じてもらえなかった。

77. 司教は、その話しだけでは願いを聞き届ける訳にはゆかない、

78. そして、天の后がどうしてホアン・ディエゴを遣わしたのか、何か別の証が必要だ、と言った。  

79. それを聞くなり、ホアン・ディエゴは司教に言った。

80.「司教様、お求めの証(あか)しとはどのようなものでしょうか。すぐに行って、私をここに遣わされた天の后にお願いをします。」

81. 司教は、ホアン・ディエゴが確信をもっていて何も疑っていないことを見てとり、帰るように言った。

82. ホアン・ディエゴが出ていくと、司教は信用する館の者に、後を付け、どこへ行き、誰に

会って話すのかをよく見届けるようにと指図した。

83. そのようにすべてが運んだ。ホアン・ディエゴはまっしぐらに石畳道を歩いた。

84. 後を付けた人々は、テペヤク近くの谷の、木の橋の辺りでホアン・ディエゴを見失ってし

まった。あちこち捜しても、どこにも姿はなかった。

85. ついに皆は戻っていった。すっかりうんざりし、思い通りに行かずに皆腹を立てていた。

86. そこで司教に知らせに行き、「ホアン・ディエゴを信用しないように。彼は嘘をついていて、言ったことはすべて作り話で、夢か空耳に違いありません。」と言った。

87. その上、もしホアン・ディエゴが戻ってきたら、二度と嘘をついたり騙(だま)したりしないよう、捕えて厳しく罰することに決めてしまった。

三度目の御出現

88. ちょうどその頃、ホアン・ディエゴは清き乙女の傍(かたわら)で、司教の返事を伝えていた。

89. 聞かれた聖母は仰せになった、

90.「よろしい、我が息子よ。明日ここに戻り、求められた証を司教に持って行きなさい。

91. それであなたを信じるでしょう。このことでもう迷ったり、疑ったりしないでしょう。

92. それから、わが息子よ、覚えておくように。私に対する心遣い、苦労、骨折りには報います。

93. さあ、行きなさい。明日、ここで待っています。」

94. 明くる日の月曜日、ホアン・ディエゴは司教に信じてもらうための証拠を運ばなければならないのに、彼はそこへは戻らなかった。

95. なぜなら、家に戻ると、伯父のホアン・ベルナルディーノが重い病にかかっていたからです。

96. ホアン・ディエゴは医者を呼びに行ったが、もう手遅れで、重態だった。

97. 夜になると、伯父はディエゴに頼んだ、

「夜が明けないうちに、暗いうちに出かけて、トラティロルコの神父様を呼んで来ておくれ。告解して準備をするために」と。

98. 伯父は、もう死ぬときが迫っているとはっきり分かっていた。もう二度と起き上がれず、治る見込みもないと。

四度目の御出現

99. 火曜日、まだ暗いうちに、ホアン・ディエゴは伯父の家を出て、トラティロルコヘ神父を呼びに行った。

100. 丘のふもとに近づくと、日の沈む方向に道が延びていた。前に通った道だ。ホアン・ディエゴはつぶやいた、

101. 「もし道をこのまま進んだら、あの高貴な婦人のお目にとまってしまう。この前のように、司教様へ証を持っていくようにと、お引き止めになるに違いない。

102. まずはこちらの心配事を先に片付け、急いで神父様を呼びに行こう。伯父さんがひたすら帰りを待っているのだから」。

103. ホアン・ディエゴはすぐに丘を回り道した。丘を半分まで登って横切り、日の出る方向へ向かった。メキシコの町に早く着くため、天のお后に引き止められないために。

104. 回り道の辺りなら、全てをご覧になるお方にも自分を見えはしないと思った。

105. 聖母が丘を下るところをホアン・ディエゴは見た。前に会った頂きから様子を見守っておられたのだ。

106. 聖母はホアン・ディエゴに会うために丘を下り、行く手をさえぎり、こう仰せになった。

107. 「どうしたのです? わたしの子どもの中で一番小さなものよ。どこへ行くのです? どこへ向かうのです?」

108. ホアン・ディエゴは少し気がとがめたのか、恥じたのか。それともびっくりして怯(おび)えたのか。

109. 聖母の前にひざまずき、挨拶し、わけを話した。

110.「私のいちばん小さな愛する娘よ、お元気ですか。良いお目覚めでしたか? お体の具合はいかがですか?  お方様、私の愛する娘よ。

111. お顔を曇らせ、み心を悲しませますが、よくないお知らせをしなければなりません。私の愛する娘よ、あなたの僕であるわたしの伯父の具合がとても悪いのです。

112. 重い病で、あとは死を待つばかりです。

113. それで今、メキシコのあなたの家へと急いでいます。 伯父が告解をして死の準備をするために、主に愛されている神父様、私たちの神父様をお迎えに急いでいます。

114. なぜなら、私たちは生きることの代償として死を迎えるために生まれて来たのですから。

115. この役目を果たしたら、お方様、私の愛する娘よ、あなたの胸のうちとみ言葉を伝えるために、私はまたここに戻って参ります。

116. お赦し下さい。もうしばらくのご辛抱を。決して嘘は申しません。私のいちばん小さな愛する娘よ、明日には必ず、大急ぎで戻って参ります」。

117. ホアン・ディエゴの言い訳を聞かれると、憐れみ深い汚れなき乙女はお答えになった、

118. 「わたしの子どもの中で一番小さなものよ、聞いて心に留めなさい。恐れ、悩むことは何もありません。顔を曇らせたり心を乱したりしてはなりません。この病、そしてほかのどんな病、痛み、苦しみも怖れてはなりません。

119. あなたの母はここにいないのですか? あなたは私の庇護のもと、覆いの中にいるではないですか。私はあなたの喜びの泉ではないのですか? あなたは私のマントにくるまれ、私の腕の中にいるではないですか? このうえ何が必要なのでしょうか?  

120. ほかに何もあなたを悩ませたり、心を乱したりはしません。伯父さんの病気のことで悲しんだり、うちひしがれたりしないように。今のところはこの病気で死ぬことはありません。もう良くなっていることを確信しなさい。」

121. (まさにその時、伯父の病気が治ったことが、後日、知らされた。)

122. 天の后の優しいみ言葉、胸のうちを聞くと、ホアン・ディエゴの心は深く慰められ、平穏な気分になった。

123. そして、司教様に信じてもらうため、何か証をいますぐに持って行くよう命じられるように願った。

124. 天の后は、前にお会いしたあの丘の頂きに登るようにお命じになった。

125.「私の愛するいちばん小さい子よ、丘の頂きに登りなさい。前におまえが私に出会い、私が命じたところへ。

126. そこにはいろいろな花が咲き乱れています。それを摘んで集め、ひとまとめにして、ここまで降りて来なさい。私の前に花束を運んで来なさい。」

127. ホアン・ディエゴは丘を登った。

128. 丘の頂きに着くと、なんとまだその季節でもないのに、たくさん花が咲いていた。きれいな、色々な花が満開だった。ホアン・ディエゴはひどく驚いた。  

129. なぜなら、霜が降りるほどの厳しい季節だったからだ。

130. あたりには、やわらかいよい香りが漂っていた。夜露が美しい真珠のように溢れていた。

131. そこでホアン・ディエゴは花を摘み集めて、マントの懐に包みこんだ。

132. その丘の頂きは、花が育つような場所ではなかった。岩やアザミ、茨やサボテンばかりだった。

133. もし何か小さな草が生えたとしても、今は12月。霜にうたれ枯れてしまう時期だった。

134. その後、ホアン・ディエゴは摘み取った花々を持って降りて行き天の乙女のところに運んだ。

135. 聖母は花をご覧になると、尊い御手で花を持たれ、

136. 彼のマントの中でもういちど花束にまとめられて、仰せになった、

137. 「私の愛するいちばん小さい子よ、このたくさんの花がなによりの証拠です。司教様に持って行く証しです。

138. 私からの言葉を伝えなさい、『この花で私の希望を悟り、私の望み、思いを果たすように』と。

139. あなたは私が遣わす者、あなたを心から信用しています。

140. くれぐれも言っておきますが、司教様にだけあなたのマントを広げ、持っているものをお見せしなさい。

カスティーヤのバラを受け取るホアン・ディエゴ

カスティーヤのバラを受け取る

ホアン・ディエゴ

141. そしてすべて正確に話しなさい。丘の頂きに登って花を摘むように私が命じたことや、あなたが見たこと、驚いたことをひとつひとつ、司教様に話すのです。

142. 私が望んでいる聖堂を、全力を尽くして建設するように司教様を説得しなさい。」

143. 天の后のご命令を受けるとすぐ、ホアン・ディエゴは弾む心でメキシコの町に通じる石畳道をまっすぐに進んだ。

144. うまくゆくだろうと、気も晴れやかだった。

145. 中のものがこぼれ落ちたりしないように、マントの中のものによく注意を払って、

146. きれいな花の香りを楽しみながら歩いた。

御姿のしるし

147. 司教の館に着くと、門番や召使いたちが出てきて彼を見つけた。

148. ホアン・ディエゴは、司教様にお会いしたいと取り次ぎを依頼したが、しかし誰も相手にしてくれなかった。 それは、言葉が分からないふりをしたのか、それとも夜明け前だったからだろうか。

149. それとも、誰なのかは知っていたが、煩わしく面倒なだけと思ったからか。

150. それに、ホアン・ディエゴの後を付け、姿を見失ってしまったと仲間からも聞いていたからか。

151. 長い間ホアン・ディエゴは返事を待った。

152. 首をうなだれて立ったまま、とても長い間呼ばれるまでじっとしているホアン・ディエゴ。見ると、何かをマントに入れている様子。そこで皆は、ホアン・ディエゴの持ちものを見て、何をもっているのか確かめようと近寄った。

153. ホアン・ディエゴは持ち物を隠し切れないと覚った。小突かれ、追い出されてはいけないと思い、花束を少しだけ見せた。

154. その花を見ると、季節に見合わないみごとな色、みずみずしさ、咲き誇るさま、香りの芳しさ、美しさに皆は見とれてしまった。

155. そして何本か掴みとろうとし、

156. 三度も奪おうと試みたが、どうしても果たし得なかった。

157. 取ろうとすると花は見えなくなり、マントの内側に描いたか、刺しゅうしたか、あるいは縫い付けたかのように見えた。

158. そこで、召使い達はすぐに、見たことを司教に知らせに行った。

159. 前にも来たインディオが司教様に会いたいと言って、長い間そこで許しを待っていると。

ただ司教様にお会いしたいと言うだけだと。

160. 司教はそれを聞くなり、納得させるための証――あの男の頼みを自分が果たすための証――を持ってきたのに違いないと気がついた。

161. 司教は、会うので通すようにとすぐに命じた。

162. ホアン・ディエゴは部屋に入ると、前と同じ様に司教の前にひれ伏した。

163. それからまた、見た事、驚いた事、聖母のお告げの内容を司教に話し、

164. そして言った、

「司教様、私はお言い付け通りにし、事を成し遂げました。

165. あなたが私を信用するための証を求められたので、私はお仕えするお方の処へ、天の乙女、聖母マリア、主のみ母の処へ行ってお話して参りました。聖堂をお望みの地に建てるように、とのお言葉の証が要るとお話しました。

166. 又、司教様のお指図で、何か証を、マリア様の思いの証をあなたのところに持ち帰る約束をしたこともマリア様にお話ししました。

167. マリア様は、司教様の胸のうちとそのお言葉に耳を傾けられ、ご自分の思いが果たされるように証の求めに喜んで応えられました。

168. そして『まだ夜のうちに出かけ、もういちどお目通りするように』とお命じになりました。

169. そこで、司教様に信用される証の品をとお願いしました。あげましょうとおっしゃり、たちまちその通りになさいました。

170. マリア様は、前にお会いした小さな丘の頂きに登るように、そこで色とりどりのカスティーヤのバラを摘むように、とおっしゃいました。

171. 私は花を摘みに登り、持って降りると、

172. マリア様は尊い御手に花束を受け取られ、

173. 私のマントの中に揃えて置かれました。

174. 花束を司教様にお持ちして、直接お手渡しするためでした。

175. あの小さな丘の頂きは花が咲くような所ではない、あそこは岩山やアザミ、茨やサボテンばかりだとよく知ってはいましたが、私は疑いもためらいもしませんでした。

176. ところが丘の頂きにたどり着くと、そこは天国でした。

177. 本当にきれいな、いろんな種類の花がありました。この世で一番美しい、露を含んだすばらしい花の眺めでした。そこで、私はすぐに花を摘みに行きました。

178. マリア様は『この花束を、私からあなたに渡しなさい。私があなたに信用され、あなたがこの花をごらんになって、あなたが求めていた印の証であると信じるように。 そして、その尊いみ旨を実行するように。』とおっしゃいました。

179. そして、私の言葉、私がお伝えしている言葉も真実であるように。

180. ここに花があります。どうかお受け取りください。」

ホアン・ディエゴのマントに出現されたグアダルペの聖母の御姿を拝見するスマーラガ司教

181. ホアン・ディエゴは懐に花束を抱えていた白いマントを開いた。

182. するといろんな種類の美しい花々が床にこぼれ落ちた。

183. みるみるうちに、汚れなき乙女、神の母聖マリアのみ姿――いま私たちが見ているあのみ姿――で大いなる印となって現れた。

184. そのみ姿はご自分のお住まい――大切な家――今ではグアダルペと呼ばれているテペヤクにある聖なる家に大事に保管されている。

185. それを見るなり、司教と居合わせた人々は皆、ひざまずき、心から崇めた。

186. み姿を見ようと立ち上がり、驚き、心を動かされ、悲しみを覚えた。

ホアン・ディエゴのマントに出現された

グアダルペの聖母の御姿を拝見する

スマーラガ司教

187. 司教は、聖母のみ心、胸のうち、お言葉をすぐに果たさなかったことの赦しを、涙と悲しみのうちに、乞い願った。

188. そして立ち上がり、ホアン・ディエゴの首に巻かれていたマントの結び目をほどいた。

189. そのマントに天の后は姿を現わされ、そのみ姿はしるしとなってマントに残された。

190. 司教はそれを大事に抱えて自分の礼拝堂に運び、安置した。

191. そしてホアン・ディエゴを引き止め、司教館で丸1日を過ごさせた。

192. 翌日、司教はホアン・ディエゴに言った、

「さあ、天の后がそこに聖堂を建てるようお望みになったという場所を教えておくれ」。

193. すぐさま聖堂を建てようと、人々は呼びかけられた。

194. ホアン・ディエゴは、聖なる家を建てるよう天の后が命じた場所を示すと、すぐに暇乞いをした。

195. 伯父のホアン・ペルナルディーノが気がかりで家に戻りたかった。伯父が告解をして命を終える支度をするため、トラティロルコヘ神父を呼びに発ったとき、病はひどく重かったが、天の后は、もう治ったと仰せになっていた。

196. 人々はホアン・ディエゴを一人で行かせず、家まで付いて行った。

五度目の御出現

197. 家に着くと、伯父はもうすっかり良くなっていて、どこにも痛みはまったくなかった。

198. 伯父の方は、甥が人々に伴われ、丁寧に扱われる様子を見て、とても驚いた。

199. 一体なぜそうなったのか、なぜホアン・ディエゴを誉め称えているのかと、伯父は甥に尋ねた。

200. そこでホアン・ディエゴは言った、

「伯父さんの告解と終りの時を迎える支度のために、神父様を呼びに出かけたとき、テペヤクで天の后がみ姿をホアン・ディエゴの前に現わされ、

201. メキシコの町へ使わされたのです――司教様にお会いし、テペヤクに聖なる家を建てるために」。

202. 又、聖母が『心配しないように、伯父様はもう良くなっています』とおっしゃったのを聞き、

とても安心した、と話した。

聖ホアン・ディエゴ
聖ホアン・ディエゴ

203. すると伯父は、「それは本当だ、ちょうどそのとき聖母が私を治してくれたのだよ。

204. 甥の前に現れたのと同じみ姿を見たのだ」と言い、

205. 『ホアン・ディエゴには、司教に会うためにメキシコの町へ行かせた』と聖母がおっしゃったこと、

206. 又『ホアン・ディエゴには、司教に会ったら見たことをすべて告げるよう命じた』とおっしゃったこと、

207. 病を治して下さったすばらしいご様子を話した。

208. そして尊いみ姿を『汚れなき乙女、グアダルペの聖母マリアと呼ぶように』とおっしゃった。

209. それから人々は、伯父・ホアン・ペルナルディーノを、司教の前で証言させるために連れていった。

210. 司教は、ホアン・ベルナルディーノと甥のホアン・ディエゴを、数日間司教の館に泊まらせ、

211. その泊まっている間に、聖母マリアがホアン・ディエゴの前に出現されたテペヤクの地に、天の后の聖堂が建てられた。

212. 司教は、この尊い天の后のみ姿を、その大切な聖堂に移した。

213. 司教は、誰もがそのみ姿を見て崇めるように、自分の館の礼拝堂から運び出した。

214. 町中、誰もがその美しいみ姿を見て感動し、崇めた。

215. 人々は誰もが、その神々しさを認め、

216. そこで祈願をするために来るようになり、

217. その聖母の奇跡的な出現に感動した。

218. なぜなら、この地上の人間は、誰もその尊い姿を描くことはしなかったのだから。

 

 

 訳者注:この翻訳は、メキシコ語で書かれた原文を1978年にマリオ・ロハス・サンチェス神父が現代スペイン語に翻訳したものをもとにして、日本語に翻訳したものです。

 

二〇〇五年四月七日

(イグナシオ・マルティネス神父、中西久 共訳)

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